マクロス The First 第一巻

【1.イントロダクション】
 有名ロボットアニメシリーズ第一作のマンガ版『マクロスThe First』の感想をお届けする。

 元になったアニメ作品『超時空要塞マクロス』は1982年、毎日放送系列で全39話が放送されました。
 この時代はまさしくハードな戦争描写を前面に押し出したリアルロボットアニメの全盛期であり、本作もそのジャンルの一作。2009年に勃発した地球統合軍とゼントラーディと言う巨人族の宇宙レベルの戦争を描いています。
 ただ、並みいる作品の中で埋もれなかったのは、そこに歌・三角関係・そして戦闘機から破綻なく変形する主役ロボットのバルキリーという今までにない要素が盛り込まれた作品だったからなんですな。

 本作は、TV・劇場版ともにキャラクターデザイナーを務めた美樹本晴彦氏により、2009年から始められたTV版のコミカライズだ。


【2.メカがいっぱい】
 リアルロボットアニメの系譜に属するだけあって、本作はメカてんこ盛り。
 全長1キロを超すマクロス艦、月軌道上にデフォールド(より一般的に言うならワープアウト)するゼントラーディ艦隊、そして町を埋め尽くす戦闘機とゼントラーディの戦闘ポッドの群!
 ただ大きくて、数が多いだけにとどまらないのが、本作の凄いところで、色々なメカが細やかに描かれて存在感はたっぷり。
 例えば、勝手に移動して飲料を販売する自販機とか。
 離陸しようとするマクロスの甲板を突き破って勝手に飛んでいく反重力エンジンとか。
 損傷した僚機を触手状のマジックハンドを伸ばして溶接修理するバルキリーとか。
 レトロさと先進性が同居するディテールは、今にはない表現や設定コンセプトがあります。


【3.リン・ミンメイ
 もう一つの看板であるヒロイン・ミンメイについても触れよう。
 初登場時はチャイナドレスでカメラ小僧のフラッシュを浴びていた彼女が輝と対面したのはすれ違いレベル。
 だけど、戦闘が始まり輝と遭遇を果たした時に思い出してもらうために、髪型を変えてうっかりトップレス姿を披露したりとか、気位の高さと親しみやすさのさじ加減が絶妙ですな。

 今はやりのツンデレとは違うんですよ。
 ここまでは来ても良いけど、ここからはダメ的なラインの引き方が実に三次元的だなと思うし、反面非日常の中に少女性を保っているのが実に良いと思う。
 ちなみにこの第一巻での衣装がチャイナとセーラーという、実に男の夢を体現しているのもポイント高し。


【4.ロボットアニメ的なアプローチ】
 肝心の主人公も、実はとてつもなく新しいものではないかーーというのが今改めて見た感想。

 ロボットアニメの主人公て素人(アムロ碇シンジetc)かプロフェッショナル(キリコ、相良宗介etc)の二極に分かれるような印象があるけれど、輝のようにパイロットとして熟達しながらも戦闘の素人というのはあまりいないタイプにも思える。
 まあ、これは兜甲児がバイクのライダーとしては天才的な運転センスを誇っていたとか、カミーユがジュニアMSのレスリングで優勝していたように、主人公がいきなり乗ったロボットをそれなりに操縦できることのエクスキューズのような側面もあるけれど、本作が独特なのは、それがちゃんとドラマとして機能していることだ。

 アムロもシンジも、ロボットに乗り込むのは自らが生き残るためであり、ヒロインを守るためというのがワンセットなのだけど、輝は違う。
 バルキリーに乗ったのは、フォッカーのサービスだし、飛び立ったのは未沙の命令があったからで、やむにやまれぬ事情は輝自身には全くない。

 だから初出撃で敢えなく撃墜されるのは無理からぬ話。
 だが、輝のバルキリーがメカとして輝き出すのはここからなのだ。

 航空機としての機能を失ったバルキリーを未沙の指示でB体型へ移行、ここで初めてバトロイドーーロボット形態ーーのバルキリーが読者の前に披露される。
 ミンメイとの思わぬコンタクト、そして無人のミス・マクロス・コンテスト会場で二人きりのオーディション、反重力機関に巻き込まれて浮遊するミンメイの救出など、輝のバルキリーは戦闘以外で大活躍する。

 身も蓋もない言い方をすれば、ここまでのバルキリーは女の子をデートへ連れていくクルマであり、モデルさんを撮影するカメラであり・・・・・・まあつまり男の夢を叶えるツールとしてしか機能していない。
 人類と異星人のコンタクトが失敗してとんでもない事態に陥っているのに不謹慎な話なのだが、事情が飲み込めていない主人公というシチュエーション、そしてメカも美少女も楽しみたい視聴者にしてみれば、全く違和感なく両立するのだ。
 だから、自分とミンメイの乗るバルキリーゼントラーディ兵士が襲ってきたまさにその時、輝は初めて敵にトリガーを引く。

 この美少女とメカのアプローチは、パイロットの殆どを美少女キャラにする近年のアニメとはまた異なったアプローチだ。


【5.おしまいに】

 放送当時マクロスはこう言われたという。
「あれはカタログアニメだ」
 と。
 それはメカや美少女など、アニメファンが好きなものを全て詰め込んだカタログ的な本作の側面を言い表した言葉である。
 その後のジャパニメーションマクロス的な幅広いファン層に受けるマーケティングを目指していた訳だけど、原点とされる本作を改めて見て思うのだ。
 全てが本気であり、全てを両立させようとしている、と。
 始まったばかりの『マクロスThe First』だが、これからしばらく付き合っていきたい。