ざいあくかん!

 代休が取れ、久し振りに三連休になったから、BOOK-OFFへ不要物件を捌きに行った。
 読み古したり、衝動買いしたもののあまり良くなかった小説・コミックがその内訳で、8冊という大して多くない数がその全てだった。
 詰め込んだリュックサックを自転車の前カゴへ放り込んで、れっつらごー。

 買い取り専用カウンターの兄ちゃんへ本を預け……お、先ほど電話をしたぱかぱか氏からコールバックがかかってきた。
 しばしお店の外へ出て、通話すること3分。
 店内に戻ったところタイミングよく呼び出されたので、買取り専用カウンターへ行ったところ、予想外の事態が発生した。
 このBOOK-OFF、地元だけに私はよく利用する。だから、大体の店員の顔は覚えている。
 30がらみの小柄な男と、クマみたいに大きな20代前半の男がメインなのだが、その日は事情が違った。
 なんとしたことか、160センチ台という俺的ベストヒットゾーンな身長の眼鏡っ娘に買い取りカウンターの担当がシステムチェンジ……いやいや、BooKOff店内のスクランブル合体がなされていたのだ!

 ら、らめえええ!

 心の中で18禁臭ただよう悲鳴をあげる俺。
 何しろこれから値段を告げられる本の中にはこんな台詞が縦横無尽に巡りあい宇宙する活字とコミックが高いパーセンテージを占めているのだ。
 眼鏡っ娘は笑顔で声を上げた。
「本日は沢山の大切なご本をお持ちいただいてありがとうございます」
 その目は果てしなく優しく見える。
 いや、分かっている。分かっているんだ。
 それは、良くて慣れないこの眼鏡っ娘が一生懸命接客スマイルを浮かべているからだ。
 悪くて百戦錬磨の三次元空間の覇者であるから、立体空間戦闘に慣れていない俺を手玉に取れるのだと。
 分かってはいるが……なぜか心が平静でいられない。
「お客様Tポイントカードはお持ちでしょうか?」
「待ってください……どこだ……あ、スイマセン、これ」
「良かったです。それでは、精算して来ますね」
 Tカード探しにもたつく俺に優しく声をかける眼鏡っ娘
 値段は380円だった。
 カネを稼ぐ大変さは、毎日身に染み付かされているが、しかしこれはまた別種の体験だった。

 疲れ果てて、漫画本コーナーに行く。「若き彗星の肖像」の5〜9巻を手にしてレジへ行くとまた件の眼鏡っ娘がレジに立っているではないか。
「お値段は1370円になります」
 財布から1400円取り出して娘さんへ。そこで30円のつり銭が俺へ渡されるわけだが、そこで娘さんは予想外の行動に出た。

 ぎゅっ

 ひんやりした手の感触を覚えている。
 10円銅貨三枚を俺の手を包み込むようにして渡してきたのだ。
 帰ると、久し振りに自転車を漕いだせいかどっと疲れが出た。
 ううむ、多分天然なんだろうな。
 いっぱいいっぱいならば、ああも手は冷んやりすまい。
 あれが完全な自己制御の挙動ならば、それはそれでやはりさんぢげん怖い。
 そんなシャアとは程遠い発想をしながら、赤い彗星とうら若きハマーンの物語を読んだ。