かぐや姫は公共事業である
恋愛っぽいことをテーマにしているのと、最近エンドレスに聞いている曲でもあるので、BGMに『化物語』の千石撫子キャラソン『恋愛サーキュレーション』を用意しました。
本編の毒が少しでも中和・・・…うげふんうげふん! 味わいが増しますように。
進学のため京都に行っていた妹が、シルバーウィークで帰省して来た。折角なので、家族揃って昔なじみのうどん屋で夕食を摂ることになった。
「イタリア語に竹取物語を翻訳しているんだけどさ、よく考えるとヒドイ女だよね、かぐや姫って」
馴染みのおばちゃんにオーダーをした待ち時間、イタリアの美術史を専攻する妹がこんな事を言った。
わしも望みが潰えているような男に対して無理難題を吹っかけて気のあるそぶりを見せかけているかぐや姫には複雑な心境を抱かざるを得ない。
とは言え、斟酌すべき余地は多々ある。
当時の奥ゆかしい恋愛作法として、明確に断わることが失礼とされていた側面はあるだろう。
それにかぐや姫に言い寄った公達は、一夫多妻の時代にそれなりの地位を得ているのだ。お相手はかぐや姫一人だけではないだろう。彼らはリア充で格差社会の勝利者なのだ。
これはかぐや姫の味方をしないわけには行かない。
「そう思うといけない。あれはきっと公共事業だったんだよ」
わしは妹にそう言った。
「と、いうと?」
眼鏡の奥で妹の目がきらりと光った。
「考えてもみて欲しい。蓬莱の玉の枝は蓬莱山に向かうだけの船の建造と食料、そして工芸職人への報酬など様々な分野へ金がばら撒かれたはずだ。
火鼠のかわごろもは、輸出入の貿易業者の懐が潤い、燕の子安貝は中納言を乗せた籠の製造者や生物学者に謝礼が支払われたに違いない。
実に国家的な一大プロジェクトだよ」
「蓬莱の玉の枝は、料金を払わなかったから職人が怒鳴り込んできたよね」
「うむ。公共事業のお金はきちんと支払えとの教訓を含んでいるのだろう。
かぐや姫はまず、自らを育ててくれた二人に富を与えた。
その後、この時代の権力者が溜め込んだ富を社会に再分配したのだよ」
我ながら見事な推論だ。惚れ惚れするぜ!
ちょうどその時、折り良くうどんが到着し、私の推論に対するツッコミ……もとい評価は聞けなかったわけだけれど、妹はニコニコうどんを食べていた。
まあ良しとするか。