イランくノ一部隊の白昼夢

イランの忍術愛好家を「暗殺者」…報道活動禁止 : 国際 : YOMIURI ONLINE(読売新聞) イランの忍術愛好家を「暗殺者」…報道活動禁止 : 国際 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

 元々のロイター通信のニュース自体がどうも微笑ましいエピソードを勘違いしていて噴飯ものなのだけど、ここから何点か興味深い点が浮かび上がってくるぞ。

 まず一つ、元ニュースから分かるのは、イラン人たちの姿だ。
 イスラーム圏と言えば、女性差別などの悪名を背負っている負の側面がある。
 タリバン政権が崩壊し、国際社会への復帰をしつつあるアフガニスタンでは、ボクシング選手を目指す女性がいるが、国内の保守的な人々からはやはりいい顔はされていないという。
 また昨年は、サウディアラビアなどでFaceBook上に自動車の運転する姿を公開した女性が物議を醸しだしたことは記憶に新しい。
 こうした状態で、イランの女性が武道としての『忍術』を学んでいるということは、イラン情勢が風雲急を告げている背景もあるだろうけれど、イランのイスラーム体制の実像が果たして何なのか、我々が考えている物と違うかもしれないという可能性を示唆している*1

 もう一つ考えなければいけないのは、イラン人の対日感情だ。
 国際的にはアメリカに同調し、アフガニスタンイラクにも自衛隊を派遣している日本の文化を(どの程度正確に伝えているかは不明だが)学び、実践しようとしているのは、驚異的な事だ。
 日本人は必ずしもイスラーム文明をよく理解しておらず身近に置いているわけでもないが、それゆえに対立した歴史もなく、すんなり受け入れられたのだろうか。
 アメリカの禁輸措置の直前まで、イラン産の原油を輸入していた事も対日感情の良さとしては見逃せないだろう。
 少なくとも、日本人とイラン人が敵対する理由もなく、我々は偏見を持たずに彼らと触れ合って行きたいものだ。

 さて、もう一つは報道したイギリスのロイター通信の報道の態度だ。
 残念ながら、GooGleのニュース検索でも、ロイタージャパンの検索でも元記事の和訳版はヒットしなかったので、何とも言えないのだが、ここには二通りの解釈ができよう。
 一つとしては、イランへの侮りである。
 当たり前だが、仮に映画の忍者がどんなに格好いい活躍をしたところで、手裏剣ではM16自動小銃には勝てないし、日本刀が刀剣類としては世界最高峰の切れ味を誇っていても、サブマシンガンの方が接近戦では圧倒的に有利である*2
 仮に敵国として見た記事であれば、65年前に日本を破った実績から、今更忍術を学んでいるイラン人を笑う、油断した姿が推察される。

 もう一つ、リアルに考えるとすれば、イギリス人が忍者を真剣に脅威だと捉えている可能性があるということだ。
 仮に、米英が兵力を動員すれば、アフガニスタンイラクのように、国家体制を転覆させ、国際的な戦争には勝利を収めることができるだろう。
 だが、おそらく占領体制においては、やはり根強いテロに悩まされるはずである。
 忍者とは、映画のように正面を切って戦うのではなく、身を潜め、諜報活動や破壊活動を行うのが本領だ。
 アフガニスタンイラクでのテロ活動のように、一般市民に紛れ込み、身近な電化製品を転じて爆発物を仕掛ける手法は、忍者的な思想があるとも考えられなくもないだろう。
 少なくとも、自分たちとは別の文化を持ち、一般市民まで戦意を持っている姿は、『戦後』の事を考えると脅威だと考え、形にならない恐怖と現状への不安が、ロイター通信のこのような報道を生み出したのではないか愚考する。

*1:忍者装束は身体のラインをあまり浮かび上がらせず、頭巾をかぶるから髪の毛も隠れ、コーランの規定するムスリマ(イスラーム教徒の女性)の姿と矛盾しないことも無視してはならないだろう。http://www.jiji.com/jc/d4?p=int316&d=d4_mili

*2:コンバットナイフの専門誌でさえ、現代の戦場では接近戦でナイフを使うことはほぼないと断じている。