本能でブドウに手を伸ばせ!
夢を見た。
晩秋、山の中にある田舎道を歩いていたおれは、トレーナーとズボンを着て直立二足歩行するチンパンジーと出会った。
どうやら彼は旧知の人間だが、どうした理由か外観がチンパンジーになってしまったとの事だった。
おれと親しげに言葉を交わし始めた。
「実は・・・・・・頼みがあるんだ」
チンパンジーと化した彼は言う。
「あそこにブドウの林があるだろう? 今から女性にプロポーズをしたいのだけど、この体になった者は誰かと競走して実を取って、一番早くプレゼントした者がその資格を持てるんだ」
だから競走して欲しいんだ、と彼は言う。断る理由もないので、おれはうなずいた。
荷物を下ろし、彼と並んで木の幹に手をかける。
スタート。
結果は圧倒的だった。
おれが幹に足を掛けたときには、彼は遙かな梢でブドウの実に手を伸ばしていた。
夢はそこで途切れ、おれは夏の田舎町にいたーー。
こんな夢だった。
あのチンパンジーが同級生の誰だったのかは、ついぞ思い出せなかった。
たぶんゴールデンウィークで実家に帰り、ディズニーの『アラディン』で元気に動くサルを観たから夢に出たとの判断もできよう。
しかし、変な理性を働かせずに、本能に従って(チンパンジーのように)酸っぱいかもしれないブドウでも手を伸ばせと言うメッセージだと解釈できる。
家族からのさりげない結婚しろオーラが見せた暗喩だったのだ、と今は考えている。