国の借金が国民の資産と言えなくなる日

senri_gusuku2013-11-10

9月末の国の借金、1011兆円=財務省

【1.国の借金】
 1,2か月前にテレビ番組で日本の海底資源の可能性について特集があった。
 日本の海は海底火山やプレートの活動が活発なため、希少金属などが埋蔵されており、その総額は試算すると数十兆円といわれているらしい。
 最近話題になった東京オリンピックだが、これまた直接効果による経済効果は1兆円、生産誘発総額は2.5兆円。しめて3.5兆円ほどが経済効果と言われている。
 さて、ニュースによれば国の借金は1011兆円である。
 どんぶり勘定だが、オリンピックならば314回開催して、あるいは世界的にはけして狭くない上特殊な条件にある領海を34倍にして(数十兆円を30兆円と見積もり、全て採掘可能という前提のもと)やっと払えるほどの計算になる。
 まあ、日本の国債はほとんどが日本の国民が持っているから全て国民の資産だから問題ないというご意見もある。ただ、その金額の途方もなさと、その利息を考えるとに、ちと立ち止まって考えるべきではないかと思わされる。


【2.日本国債を国民だけが買い続けられるのか】
 さて、悲しい事だが、ここに興味深い現実がある。
 日本は数年前にアメリカに次ぐ経済大国ではなくなり、世界第二位のGDPを誇る国は中国になっている。
 少し前に中国資本による水源地の買い上げなどが問題になり、最近は中国の資産家が日本の文化財を購入しようとしている事が話題になっている。
 では、GDPで上回る中国の投資家(富裕層一人ひとりの規模は日本の富裕層より大きい)が今後日本国債を買う可能性もゼロではないだろう。
 ギリシアに端を発したEU各国の通貨危機国債の暴落は経済的な不安から投資家たちが各国の国債を手放した事に原因の一つがあるとされている。
 アベノミクス前の日本は円高だった。それを民主党政権の無能さによるものだと糾弾する向きもあるが、当時言われていたもう一つの理由としては、また日本円が世界的にみて信用があるから高値で取引されているというものだった。
 今後は中国だけではなく、インドやブラジルなどの新興国も台頭するだろう。その時に各国の投資家が日本国債を買う事はありえない話ではない。
 経済規模が世界有数ではなくなった日本がその際、国際的なマネーゲームに今よりも激しく巻き込まれ、大変な事になる事を想像する事は難くない。

 中国を完全な脅威として考えるべきかは今後の外交の展開次第だ。ただ、全面的・あるいは現代的な地域紛争まで至らなくても、悪意や恨みではないただの欲望が国の運命を左右する事がある事はきちんと考えるべきだろう。
 それはまだ見ぬインドやブラジルの投資家であっても同じことだ。


【3.借金の行方】
 話は一気に過去に飛んで恐縮なのだが、日本史をひも解いてみると、経済問題は政治体制や社会基盤に大きな影響をもたらしている。

 鎌倉幕府元寇のコストを払いきれずに徳政令(借金の無効化)を宣言し、民衆の不満をためこんだ末、北条政権の腐敗により倒された。
 江戸時代、借金にあえぐ米沢藩は金を貸した商人も士分に取り立て、支払う俸禄の増大や藩内の身分秩序の乱れに苦しんだ。
  薩摩藩は500万両の借金を無利子の250年賦とするという離れ業をし、琉球奄美から過酷な取り立てをし、一部の商人には黒砂糖や琉球口から輸入した中国の物品の専売などの特権を与えた*1
 江戸幕府は棄捐令と呼ばれる借金の帳消しや利息の放棄を三度行ったが、幕政の後期に集中しているのはやはりなかなか興味深い。

 今後の動向として気になるのは、日本政府が果たして国民に対して国債の元本や利息を保証できないデフォルト(債務不履行)の状態になるか、国債を買う富裕層や企業に特権を認めたり、はたまた外国の投資家が国債を買うのと引き換えに国内で特権を認めたりと社会秩序の乱れが現れないか、という事だ。


【4.今後の対策】
 差し当たって私は経済の専門家ではないのだが、対策として考えられるのは、今後の技術革新などに対応して稼ぐべき時に稼げるように人材や企業・研究機関の維持をしておくこと。
 国産品の使用率を上げること。
 最後に、福祉予算の負担軽減を目的にした少子化対策だろう。
 8割以上が高等教育(高校卒業後の専門学校、短大、大学など)を受ける時代である。
 今後のシュリンクしていく一方の日本で今までの教育水準が維持できるかは疑問なのだけど、今から対策をしたとして、彼ら彼女らが社会人になるまでの期間から25年計画を見積もり、増税はやむを得ないが、ゴールがある事をきちんと提示する事だ。
 一時的な不安の煽りから増税を行っても、将来のヴィジョンがなければ、人は社会や政府を信じられない。
 以前の自民党も、民主党も、今の自民党もそういう所が出来ていない。
 オリンピックだけが社会の希望だと考えるのは、いかにも貧しい視線だし、見識を欠いていると言わざるを得ないと思うのだが、いかがだろうか。

*1:なお、薩摩藩の借金については諸説ある。文政6年の段階で164万両だった借金が文政12年には500万両になっているのはそれまでの増大のペースからかけ離れているため、利息の変動を防ぎ、長期の返済とするためにあえて2倍以上の500万両として利息代わりにしたのではないかという説があるのだ。また、実際には250年間の支払いはなく、明治4年廃藩置県を機に明治政府は江戸幕府や旗本だけに適用されていた棄捐令を拡大解釈し、薩摩藩時代の借金の返済を不要とした。