焼き芋、それは夏の味覚

senri_gusuku2014-07-23

【1.焼き芋の再発見】
 焼き芋を自宅で簡単に楽しみたい。
 そう思ったのは2013年の晩秋である。当時俺は節約のために料理下手・料理に全力を注ぎたくないなりに自炊を頑張っていた。

 十八番は、袋詰めされた鍋汁を元にした鍋料理。
 これなら野菜も肉も摂れるし、一品でおかずも汁物も兼ねられるから食べた後の片付けも楽だ。

 けれども、それだと食べられる食材が限られるので、さらにおかずを一品付けたくなる。シフト勤務で三食の時間帯がおかしくなる日もあるので、出勤前に適当に空腹をいなしたりできる食べ物もあるとよかった。
 食品というのは、惣菜、弁当、そして外食の順に高くなっていく。
 言い換えれば、材料に近い物ほど安価になっていくわけだ。
 スーパーで何かいいものはないかと思っていると、ふと目に留まったのがサツマイモ、いや南九州ではカライモとよばれるヒルガオ科植物の根菜だった。
 これなら量もあるし低カロリー、そして焼き芋にできれば簡単に食べられる!
 おりしもホームセンターで見かけた焼き芋調理用の土鍋が脳内で化学反応した俺は、寒い季節のくせにハッスルして行動に出た。
 土鍋の価格は1000円足らず。これと低い原価で幼い頃からのノスタルジーや特別な食べ物をいつでも手に入れられるのならば、安い物だ。

【2.焼き芋を作ろう!】
 宮崎で手に入るサツマイモは鹿児島産と、県の南にある串間市で取れるものの2通りあるが、迷わず後者を選んだ。串間市は水道料金も値上がりし、3・11前は原発を誘致しようとまでしていたくらいの場所だ。
 少しは金を落として元気にしてやりたいと考えるのは県民として自然な感情だった。
 土鍋で作るのは簡単で、熱が通りやすいように適当に切ったサツマイモを鍋に入れて、弱火で熱し続ければ出来上がり。

 ふかした芋とは段違いの出来栄えに、ほぼ毎日お世話になっていた。
 前の冬は疲れた時にミスタードーナツを食べていたのだが、土鍋が来てから安くて低カロリーな甘味を楽しめたのは財布にも体重にも優しかったし、量を食べるとお通じもなかなか良くなるので、健康になっていく自覚があった。
 実にすばらしい物だったのだが――。春先のまだ肌寒い頃、芋の質が急激に落ちた。幾ら加熱しても食べやすくなるだけで甘みが出ない。また、芋を買って数日すると上下の断面に小さなカビのような物が付くような事もあった。
 食べ飽きたのか、俺の味覚がおかしくなったのか。がっかりした俺は、失意のうちにサツマイモ常食から離れたのだった。


【3.真夏の再会】
 3か月くらいご無沙汰が続いて、ふとスーパーでサツマイモコーナーを見ると、意外な光景を目にした。
 焼き芋というと冬の味覚なので、サツマイモのシーズンは晩秋から冬にかけてと思っていた。ところが、「新物」と銘打たれた鮮やかな紫色の芋が誇らしげに並んでいるではないか。
 早速買って帰ったね。

 芋自体は細いが、これならば火がすぐに通るという物だ。
 勇んで四つに切って、鍋に投入した。

 そして待つこと暫く。火を通しても皮は鮮やか、断面は深い黄金色を魅せている。食べるとまさしく美味い焼き芋だった。

 どうやら季節の最後になると古くなっておいしくない芋だけになってしまうらしい。俺は少しサツマイモに対する経験値を深くすることができた。
 ともあれ、これでしばらくはまた健康的ないい食事がとれそうである。
 暑い季節だろうと、そんなことは関係ないね。