スマート フォーフォーの事


【1.ぼつぼつと自動車語りでも】
 今や毎週末のように鹿児島に行って歴史講座を受けて、南九州出身者よりも郷土史に詳しくなろうとしているわたくし。
 こうなってくると、段々ネックになってくるのが移動です。
 主だった施設には公共交通を使えば行けるのですが、マイナーな施設・史跡になるとそれもなかなか大変。運よく最寄にバス停があっても1日に3本しか便がなかったりすることもありますし、都城盆地の寒天工場跡地なんて地元の方々が知らない史跡なんぞはバスなんてあるわけがありません。
 こうなってくると自動車の出番です。
 都内に住んでいた時は贅沢品に思っていましたが、今や各社の軽自動車のパンフの郵送を申し込んだりと、変われば変わるものですね(苦笑)。
 色々と気になる車種はあるのですが、N BOX+やN-ONEのようなツートンカラーの自動車に魅力を感じ、ふとした記憶を思い起こさせました。
 思えば、都内にいた時欲しいと思わされた車種が一種だけあったのです。
 やはりツートンだったその車種は、スマート フォーフォーといいました。


【2.スマート フォーフォー】
 スマート。シンプルながらもセンスのいい名前のこの企業は、スイスの時計会社スウォッチダイムラー・ベンツをパートナーとして1994年に創業されました。
 自動車開発経験のない時計会社と小型車市販の実績がないダイムラー・ベンツが小型車をメインで製造・販売するという異色の企業です。
 日本なら日野自動車セイコーやカシオと言ったところでしょうか。まあ、日野自動車トヨタ連結子会社で、トヨタ系列の小型車と言えばダイハツがあるので、例えとしては適切かどうかは分かりません(苦笑)。
 そんなスマートが、スタンダードなサイズの5ドアハッチバック型のセダンとして2004年に送り出したのがフォーフォーでありました。

 先に申し上げた通りのツートンカラーに、シートはオレンジ色。コントラストの効いた個性ある配色は目に残ります。
 撮影した時はよそ様の車なのでナンバーを写さないようにしたので分かりにくいですが、リアウィンドウの下端が丸みを帯びて窪んでいるところとか、ボンネットの下端が地面に対して垂直ではなく、内側に入り込むような、部分ごとのボリューム感や丸みに拘ったデザインなど圧倒的な存在感がありました。
 ドイツというと、私のようなミリタリーマニアには、堅固な戦艦ビスマルクとか、潜水艦技術で一貫して世界で存在感を示している事から無条件に高い評価を付けたくなるものです。

 ところが、スマート フォーフォーはどうやら売れずに2006年に販売終了となり、後継モデルも作られていません。現在売られているスマートはフォーツーと呼ばれる3ドア2人乗りのより小さなモデルです。
 自動車と言えば、軽自動車でも4人乗りが主流なだけに、このラインナップと断絶は不思議な物でしたが、それはフォーフォーの出自によるものでした。


【3.悲劇のリコール隠し
 スマート フォーフォーは、今や生産中止になった三菱自動車のリッターカーのコルトの車台を流用し、三菱のオランダ工場で造られていました。
 これは、1970年に三菱重工クライスラーが合弁事業として三菱自動車をスタートし、2000年にもダイムラー・クライスラーと乗用車分野における資本・業務提携を結んだ事など、スマートの親会社と三菱の蜜月が背景にあった事は推測に難くありません。
 が、不幸にして2000年に発覚し、しばらく続いた三菱のリコール隠しの影響から三菱の売り上げは激減し、資本提携は2005年に解消されています。
 フォーフォーは三菱のリコール隠しのあおりを受け、そして5ドア車を製造するラインを持たないスマートは以降3ドア車しか製造できていないというのが、おそらくフォーフォーの系譜が断たれている実態と解釈して差し支えないでしょう。
 技術提携は2009年まで継続されたので、フォーフォーの生産が翌年の2006年まで続いたのはそうした事情によるものでしょう。
 以降、スマートは3ドア2人乗りのフォーツーにシフトし、現在まで続きます。
 5ドア車を作りたいのならば三菱以外のメーカーと提携すれば良かったのでしょうから、フォーフォーが残念な販売実績だったというのは間違いないのでしょう。 幸いな事にフォーツーは低燃費かつ小型ながら大型車と同様の衝突安全性というニッチな立ち位置で生き延び、町中や高速道路でたまにその個性的な姿を楽しめます。

【4.そして2013年】
 スマートの販売終了が終了した年の9月に、三菱自動車はユーザーから寄せられた不具合情報を共有可能とする新品質情報システムの導入を発表し、リコール問題には一応の決着が付けられています。
 しかしながら一連の騒動はゼロ戦戦艦武蔵を作った企業の末裔かと思うと物悲しい気分を禁じえませんでした。
 最近の救いは、軽自動車を日産と共同生産したニュースでしょうか。
 発売前に判明したekワゴンやDAYZの不具合に対して三菱の対応は発売から数年たって発覚してアクションを取る他社に比べて格段に早いと思います。
 できればこのまま信頼を回復して新しいフォーフォーの姿を見れたら楽しいものですが、三菱自動車に対する財政支援は最早ダイムラー・クライスラーとは無関係な世界に突入しています。
 とまれ――、様々なメーカーのカタログを見た今となっては、自動車の価格も分かるようになるものです。
 二人乗りのフォーツーの最安値モデルの価格、159万円。税制上は軽自動車ですからライフサイクルコストは安い物ですが、ワゴンRやムーヴ、N-ONEも最上級の装備でターボエンジンが積まれたタイプを買ってもお釣りが出る価格です。
 ちょうど三菱からもコルトの後継モデルが出ています。1.3リッターだったコルトに対して1リッターに絞った普通車は、装備を最上級にしても価格は130万円を越えません。
 車種名はミラージュ(蜃気楼)。
 過去の夢は夢として幻に消えたと考えた方がいいでしょう。