軽自動車が国際市場で戦うには、何馬力必要か?
【1.数字が語り掛けてくるんだ】
以前UpしたS660の馬力に関する考察だけど、一覧表を作ると分かりやすいのではないかと考え、参考資料を作ってみた。
みたはずなのだけど、作っている内に少し自分の考えが進んできたので、独立した日記として書いてみたぞ。
私は完全な文系だけど、数字を追っている内に物が見えてくるとは年を取ったというか、いやまあ社会人としては、やっと人並みになったというべきか。
【2.Aセグメントの国際比較】
まずは、一部の軽自動車と、国産Aセグメント、そして町中でよく見かける外車のAセグメントの一覧表をどうぞ。
馬力だけ話しても自動車の重さは様々なので、パワーウェイトレシオも記載してみた。
私もこの表のために初めて使った数値だけど、馬力当たりの重量をこの数値は、数が小さければ動力性能は優秀さを示している。なお、小数点第4位以下は四捨五入した。
もちろん、これだけではなくてエンジンの最大トルクを引き出すための回転数だとか空力やCVTだかギアのセッティングとかで総合的な動力性能は決定されるので、参考までに見てほしい。
作成している内に段々表記が揺れているところもあり、パッソ以降はグレードの違いによる幅の記載が出来ていない所はご容赦の程を。
メーカー | 名前 | 車両重量(Kg) | 馬力 | 排気量(CC) | ターボ、N/A | パワーウェイトレシオ(Kg/PS) |
---|---|---|---|---|---|---|
ホンダ | N-WGN(N/A) | 820〜880 | 58 | 658 | N/A | 14.138〜15.172 |
ホンダ | N-WGN(ターボ) | 850〜910 | 64 | 658 | ターボ | 13.281〜14.219 |
ダイハツ | コペン | 850〜870 | 64 | 658 | ターボ | 13.281〜13.593 |
三菱自動車 | ミラージュ | 860〜870 | 69 | 999 | N/A | 12.609〜12.464 |
日産 | マーチ | 940〜1040 | 79 | 1198 | N/A | 11.899〜13.165 |
トヨタ | パッソ 1.0L | 910 | 69 | 996 | N/A | 14.435 |
トヨタ | パッソ 1.3L G | 940 | 95 | 1.329 | N/A | 9.895 |
ケータハム | セブン160 | 490 | 80 | 658 | ターボ | 6.125 |
smart | フォーツー クーペmhd | 840 | 71 | 999 | N/A | 11.831 |
smart | フォーツー カプリオ ターボ | 870 | 84 | 999 | ターボ | 10.741 |
フォルクス・ワーゲン | up! | 900〜920 | 75 | 999 | N/A | 12〜12.267 |
フィアット・クライスラー | 500 TwinAir Pop | 1010 | 85 | 875 | ターボ | 11.882 |
フィアット・クライスラー | 500 1.2 Pop | 990 | 69 | 1240 | N/A | 14.349 |
外車はパワフルという印象があるけれど、こうしてみるとsmartもフィアットも85馬力を最大の出力の上限にしてとどめており、100馬力というのはTPP対策でもいささか行き過ぎの可能性がある。
意外な事にコペンとN-WGNのターボでも、パッソの1.0リットルモデルとフィアット・500 1.2 Popより高い成績を示している。維持費を考えれば、現行軽のターボもそんなに悪い選択肢ではないのだ。
ただ、マーチやミラージュの下限値には及ばない。
両者ともにASEAN諸国への輸出の関税で優遇を得るためにタイの工場で生産されるまさに国際市場で戦う日本のAセグメント車だ。ここはやはり、64馬力規制を取り払ったケースと比べてみた方が面白いだろう。
S660の重量はまだ不明なので、一応コペンと同じと仮定した。
樹脂製の外装をフレームに被せるコペンと、モノコック構造のS660だと前者の方が軽いかもしれない。けれど、S660はソフトトップで電動ルーフなどの機能もないし、モノコックの方が軽くなるという考え方もある。一長一短なので、同じ値として計算したぞ。
メーカー | 名前 | 車両重量(Kg) | 馬力 | 排気量(CC) | ターボ、N/A | パワーウェイトレシオ(Kg/PS) |
---|---|---|---|---|---|---|
ホンダ | 仮想S660(80馬力) | 850〜870 | 80 | 658 | ターボ | 10.625〜10.875 |
ホンダ | 仮想S660(85馬力) | 850〜870 | 85 | 658 | ターボ | 10〜10.235 |
ホンダ | 仮想S660(100馬力) | 850〜870 | 100 | 658 | ターボ | 8.5〜8.7 |
三菱自動車 | ミラージュ | 860〜870 | 69 | 999 | N/A | 12.609〜12.464 |
日産 | マーチ | 940〜1040 | 79 | 1198 | N/A | 11.899〜13.165 |
トヨタ | パッソ 1.3L G | 940 | 95 | 1.329 | N/A | 9.895 |
ケータハム | セブン160 | 490 | 80 | 658 | ターボ | 6.125 |
smart | フォーツー クーペmhd | 840 | 71 | 999 | N/A | 11.831 |
smart | フォーツー カプリオ ターボ | 870 | 84 | 999 | ターボ | 10.741 |
フォルクス・ワーゲン | up! | 900〜920 | 75 | 999 | N/A | 12〜12.267 |
フィアット・クライスラー | 500 TwinAir Pop | 1010 | 85 | 875 | ターボ | 11.882 |
こうしてみると、80馬力でもパワーウェイトレシオは10Kg/PS台に向上する。フィアット・500 TwinAir Popは元より、smartフォーツー カプリオ ターボと並ぶかそれ以上の数値だ。
もちろん、アウトバーンを走行する事も考慮された欧州車と、制限時速100キロの高速道路を前提に考えられた国産車では車体の構造に費やす重量も違うだろう。けれど、この余力を車体の強度に振り分ければ、TPPの趣旨である自由貿易として欧米にも売り出せるのではないか。
さらに出力を100馬力まで引き上げるとパッソの1.3Lモデルの9.895を越える8.5〜8.7にまで跳ね上がる。
きっかけとなったケータハムセブンは越えられないけど、あれはそもそも400万円以上する本格的なスポーツカーで、ここで取り上げたどの外車よりも高い(取り上げた車種は200万円程度)から、比べても詮無い事だろう。
【3.Bセグメントで確信を得る】
続いて、参考までに、Bセグメントの表を。
今回掲載した軽にハイブリッドはないので、通常動力の車を掲載した。
ちなみに、ミニクーパーは調査のタイミングでホームページの諸元表が文字化けしていたので、正常に表示されたクラブマンを記載している。
メーカー | 名前 | 車両重量(Kg) | 馬力 | 排気量(CC) | ターボ、N/A | パワーウェイトレシオ(Kg/PS) |
---|---|---|---|---|---|---|
ホンダ | フィット3 13G | 970 | 100 | 1317 | N/A | 9.7 |
ホンダ | フィット3 15XL | 1060 | 132 | 1496 | N/A | 8.03 |
マツダ | デミオ 13C | 1030 | 92 | 1298 | ターボ | 11.196 |
マツダ | デミオ XD Touring | 1080 | 105 | 1498 | ディーゼルターボ | 10.286 |
フィアット・クライスラー | イプシロン | 1090 | 85 | 875 | ターボ | 12.824 |
BMW | MINI Cooper Clubman | 1210 | 122 | 1598 | N/A | 9.918 |
フォルクスワーゲン | The Beetle Design | 1300 | 105 | 1197 | ターボ | 12.381 |
フォルクスワーゲン | The Beetle Turbo | 1380 | 211 | 1984 | ターボ | 6.54 |
クライスラーのイプシロンが例外的に低いが、これはフィアットとエンジンを共用しているからだ。
見ての通り、外車でも100馬力を越えるのはBセグメントからになる。
100馬力でアウトバーンを走行して万が一の事故に備えた車体となると、このサイズがやはり必要という事だろうか。
日本車でも、最新デミオのガソリンモデルは100馬力未満で、ホンダのフィット3のガソリンモデルが100馬力きっかりだ。
S660をスポーツカーとして例外扱いするにしても、軽自動車全体を輸出車に引き上げるために全てを100馬力に底上げするのは、各方面の反発は必至だ。自社製品の共喰いになるし、欧米側のAセグメント・Bセグメントの区分も見直さないといけなくなるからである。
ともすると、S660が技術的に100馬力に到達する事は出来ても、やはり登録車扱い。TPPに伴う軽自動車の規格見直しがあるとしても、100馬力は現実的ではない。
【4.まとめ】
結果として、Aセグメントとして国際市場を戦うには、80-85馬力あればいいという事になる。
ただ、貧乏性の私としては、64馬力からそんなに引き上げられても値上がりするんじゃないかとしみったれた事が気になってくる。
それに、クルマ好きから後ろ指をさされても軽自動車の販売台数はN/Aモデルの方が多いのだから、国際市場を戦うにも現在の数値に近い物が提案できないか、と思うのだ。消費者は限られた予算の中で最適な選択をしたいはずだから。
外国と言ってもアウトバーンのあるようなヨーロッパだけではない。
高速道路が未整備な途上国もあるだろう。いたずらに欧米の車の性能と肩を並べる事だけが正解とは限らない。また、そうした国こそが今後の成長市場と言えるだろう。
そんなわけで、先ほどのAセグメント表で、軽自動車とASEAN向けのマーチとミラージュを抽出し、インドで販売されている車種とその他(理由は後述)を追加してみた。
メーカー | 名前 | 車両重量(Kg) | 馬力 | 排気量(CC) | ターボ、N/A | パワーウェイトレシオ(Kg/PS) |
---|---|---|---|---|---|---|
タタ自動車 | ナノ | 580〜600 | 32.185 | 623*1 | N/A | 18.021〜18.642 |
マルチ・スズキ・インディア | アルトK10 | 740 | 68 | 1000 | N/A | 10.882 |
ホンダ | N-WGN(N/A) | 820〜880 | 58 | 658 | N/A | 14.138〜15.172 |
ホンダ | N-WGN(ターボ) | 850〜910 | 64 | 658 | ターボ | 13.281〜14.219 |
ダイハツ | コペン | 850〜870 | 64 | 658 | ターボ | 13.281〜13.593 |
ホンダ | 仮想S660(80馬力のケース) | 850〜870 | 80 | 658 | ターボ | 10.625〜10.875 |
ホンダ | 仮想S660(85馬力のケース) | 850〜870 | 85 | 658 | ターボ | 10〜10.235 |
ホンダ | 仮想S660(100馬力のケース) | 850〜870 | 100 | 658 | ターボ | 8.5〜8.7 |
三菱自動車 | ミラージュ | 860〜870 | 69 | 999 | N/A | 12.609〜12.464 |
日産 | マーチ | 940〜1040 | 79 | 1198 | N/A | 11.899〜13.165 |
フォルクス・ワーゲン | up! | 900〜920 | 75 | 999 | N/A | 12〜12.267 |
フォルクスワーゲン | The Beetle Design | 1300 | 105 | 1197 | ターボ | 12.381 |
フィアット・クライスラー | イプシロン | 1090 | 85 | 875 | ターボ | 12.824 |
タタ自動車のナノのパワーウェイトレシオ18台はさすがに、10万ルピーカーの超廉価モデルの例外として考えるにしても、マーチやミラージュは11後半〜13前半だ。
フォルクスワーゲンのup!やビートル、そしてクライスラーのイプシロンは外車でもパワーウェイトレシオが格別高くなかった車種だ。これらの数値は12Kg/PS台。ここら辺が途上国を含めて国際的にも多くの人がストレスを感じない動力性能となるのだろう。
N-WGNの最重量モデルとUp!は大体同じくらいなので、75馬力あれば同様の性能を与えられるだろう。
ここは我が国のモノづくりのためにも、成長著しい新興国の市場を掴むためにも、軽自動車の馬力の自主規制を75〜85に引き上げるようにホンダと国の偉い人が合意に達していると嬉しいんだけどなあ。
軽自動車、国内で作っているから、雇用も増えて日本はより豊かになりますよ、お偉いさん方!
え? 海外と規格を統一したから海外で作るって? それは一番の悪夢だけど、ホンダのフィット3は海外でも売られているけど寄居工場で作られているから、そんな事はないっすよね?
衆院選がS660の正式発表の後だったら面白いんだけどなあ(ぼそっ)。