S660は64馬力? それとも100馬力?


【1.気になるS660、ベストカーの情報】
 昨年から開発が発表されていたホンダの新型軽スポーツのS660。
 私はN-ONEもあるし購入することは考えていない物の、チェックは欠かせない。
 コンセプトカーのデザインは格好いいし、目が離せなくなる事情が一つあった。

 今年の10月第4週発売のベストカーでの記事によると、S660はTPP対応で軽自動車の税率が上がる事と引き替えに、軽自動車の馬力の自主規制の64馬力を撤廃し、100馬力になるというのだ。
 未確認情報との事だったが、天下の講談社が発行する雑誌の巻頭で特集され、その記載は11月第2週売りのモーターショウ特集号でも揺らぐことはなかった。
 スズキのエンジンを80馬力にチューンしたケータハムセブンが軽自動車枠で発売されたことが切っ掛けとして挙げられており、情報には一定の説得力があった。

 おりしも軽自動車の税率上昇の時、ホンダの姿勢には疑問があった。
 スズキの会長のかみつき方は半端ではなく、ダイハツ経団連で発言力の強いトヨタの系列会社であるにも関わらずスズキに続いて苦言を呈していた。ところが、N-BOXで軽自動車ナンバーワンの地位を得たホンダは、2社の発言に少し遅れて税の増額に難色を示して、あまりやる気が感じられなかったのだ。
 ホンダの国内市場への軽視の反省からN-BOXが生まれたという記事を何度も読んでいた私としては、揺り戻しが発生したのかとがっかりした物だった。
 そんな後でのベストカーの記事は、なぜホンダが大人しかったのか納得できる物で私はおおいに頷いたものだった。増税は避けられないものとして、その趣旨である国際競争力や自由貿易の世界に軽自動車を引き上げようとするナイス判断。
 かつてN-360の時代に、公用車と間違えられるからと一般の使用が禁止されていた白や赤のボディカラー*1を許すように運輸省と戦っていたホンダの魂は健在だったのだ!

 S660は一部のスポーツカーユーザーだけではなく、軽自動車全ユーザーの夢を運ぶ車になりそうだった。


【2.ホリデーオートの別情報】
 ところが、ホリデーオートという雑誌を読むと情報は違っていた。
 絶対匿名を条件に、ホンダの関係者が明かした情報によると、S660はやはり64馬力で発売されるというのだ。
 90馬力以上にチューンしたモデルも開発中だが、それは5ナンバー枠(と、記載されているのだが、そもそも軽自動車は5ナンバーなので、普通車とか登録車という意味だろう)での販売になると言うのだ。
 背景として、100馬力まで引き上げると各メーカーでの競争が際限なくなり、軽自動車枠の意味がなくなってしまうとのこと。

 なんだか常識的な枠に収まった最新の報道だが、掲載のチューンアップされたS660の予想図がコンセプトカーはもとより、ベストカーで発表された予想図よりも派手で現実感がなく、どうなる事やら。
 ベストカーでも未確定情報となっていたから、この情報の方が地に足が着いているともいえよう。

 たしかに、100馬力というのはなかなかの数値だ。
 Aセグメント(1300CC未満のコンパクトカー)として軽自動車から一回り大きな車で見ると、三菱のミラージュは1000CCで69馬力、日産のマーチは1200CCで79馬力だ。海外のフィアット500は875CCターボで85馬力で、1240CのCN/Aモデルは69馬力。Bセグメントのデミオでは1500Cディーゼルターボで105馬力、ホンダのフィットハイブリッドは1500Cのガソリンエンジンとハイブリッドモーターがそれぞれ110馬力と29.5馬力となる。ちなみに外車のBセグメントだと、クライスラーイプシロンが875CCターボで85馬力(フィアットクライスラーだから、エンジンはフィアットと共通)だ。
 スズキが海外に軽自動車を輸出するとき、エンジンは800CCに積み替えているというが、排気量から推測するに、100馬力には及ばないと考えられよう。

 と、すると今までの報道は講談社の勇み足なのか。


【3.未来に希望を】
 ただ、実際に自動車業界がTPPにさらされて、ケータハムセブンが存在するのは事実だ。
 ベストカーとホリデーオートで観測気球として別々の情報を流して、着々と準備を進めている可能性だってある。
 個人的には100馬力はオーバースペックだとは思うけど、80馬力ならばケーターハムセブンと並んで、過剰な競争は起こさないし、Aセグメントとしてはマーチと並んで不足のない動力性能になる。欲を言えば、85馬力あればフィアット500は迎え討てるし、海外でも戦えるのではないか。
 おりしも、ホリーデーオートの同じ号でケータハムセブンが80馬力で軽になったのは、スズキが提案したからではないかとの説が流れていた。
 新しい自主規制は80〜85馬力。円安を背景に国内の工場が生産した軽が途上国を初め、古い町並みの隘路が残るヨーロッパにもがんがん輸出される未来が実現してくれると嬉しいものだけど、どうなるかなあ。

*1:前者はパトカーや救急車に似ていて、後者は消防車に似ているという理由だった。