グレイス、デビュー


【1.そこはかとないセダンへの憧れ】
 私が子供の頃、マイカーというとトランクを後部に独立して持つセダンが主流だった。
 私の実家もご多分に漏れずセダン型の4代目アコードだったわけだが、免許を取り、ハンドルを握るようになると曲者だった。トランクが突き出た車体は、初心者に苦手な車庫入れの際に距離感が掴みにくいのだ。ぶつけなかったのは奇跡と言ってもいい。
 アコードが引退した後に来たのはハッチバックのフィット1で、どれだけ助かったかはわからない。
 それからしばらくすると、自動車の後部には車庫入れを助けるリアカメラが普及しだし、こちらの恩恵にも浴することになった。

 こうして人も道路もおおらかな宮崎で安心してN-ONEに乗っている私はふと思う。運転に慣れた今、カメラも付いていればセダンもさほど不便ではないのではないか。
 小賢しくなると、3ボックス型と言われるセダンのメリットも耳に入ってくる。
 曰く、後ろに独立したトランクを持つから、後輪のノイズや振動が入らなくて乗り心地がよくなる。
 曰く、後ろのトランクは別の箱だからこそ、追突事故に遭った時の安全性が高い。
 ただ、町中でよく見かけるタクシーのクラウンコンフォートのような直方体のようなデザインしか馴染がなかったし、高そうなイメージしかなかったので敬遠していたわけだが、グレイスの流線型のデザインを見た時、それまでの私のセダンのイメージは覆された。
 これは明らかに格好いい!
 しかも今時5ナンバーで販売するという庶民性は中々ではないか。


【2.そこはかとない疑問】
 そんなわけで少し遅くなったが、正式発表と発売がされたグレイスの日記である。
 発売の前情報として気にかかったのはフィット3がベースだと言うことだった。
 フィット3にそこまで悪い印象は抱いていなかったのだが、同じ車体をベースにトランクまで設けるとどうなるか。
 ダイハツのオプティとか、フィット1をベースにしたフィットアリアなどのやや寸詰まったデザインが頭に浮かぶ。
 ところが、グレイスのデザインはそんな『我慢』は感じられなかった。正式に発表された諸元やプロフィールを見るとホイールベースを延長しているというのだ。
 これって設計に無理はないのだろうか?
 そんなわけで、フィット3とヴェゼル、そしてグレイスの比較表を作ってみた。

発売 名称 車両重量(kg) 長さ(m) 高さ(m) ホイールベース(m) トレッド前/後(m) 排気量(CC) 出力(hps)
'13年9月 フィット3 HV 1080〜1140 3.955 1.695 1.525 2.53 1.48/1.47(HV,F,L)、1.475/1.465(S) 1496 110+29.5
'13年12月 ヴェゼル 1270〜1380 4.295 1.77 1.605 2.61 1.535/1.540 1496 132+29.5
'14年12月*1 グレイス 1170〜1200 4.4 1.695 1.475 2.6 1.48/1.47(DX、LX)、1.475/1.465(EX) 1496 110+29.5

 ご覧の通り、フィット3と同時期に発売にされたヴェゼルホイールベースは拡張されている。また、トレッドも拡大されていることが分かる。
 フィット3とヴェゼルの発売の期間は3か月くらいしか空いていない。グレイスの海外版であるシティは2014年1月発売で4か月の間隔だ。
 おそらく設計段階からこのサイズ変更は考えられていたのだろう。
 まあ、ベースと言っても軽自動車のように車台を共通化させるだけが唯一の方法という訳ではないから、ここは私も考えを改めないといけないだろう。


【3.動力・燃費】
 ただ、フィット3ベースというと、やはり気になるのがDCTを使ったパワートレーン(i-DCD)のリコール問題だろう。
 フィット3と同じシステムを採用したグレイスも6月と言われていた発売は遅れに遅れ、この12月になったわけだ。
 先行して販売されていた海外だとどうなっていたかと思いきや、MTとCVTしかなくハイブリッドの設定はなし!
 まあ、発売国が欧米ではなく途上国なのでハイブリッドは値段を上げる要素として敬遠されるのだろう。また、最近のCO2排出量も途上国が先進国を上回っているというし、環境意識がマーケット向けの製品という事もあるのだろう。
 ただ、海外版のシティで面白いのは、ディーゼルの設定がある事だ。
 新型デミオの躍進ぶりをみると、安価な軽油を使えるディーゼルは燃費問題への一つの解答のように見える。これならグレイスのディーゼルエンジンモデルも販売してほしい物だが――、新型デミオの人気はSKYACTIVE-Dの高圧縮比あっての低燃費に支えられた物なので、おいそれと真似はできないのだろう。

 さて、i-DCDに今後リコールが起こらないかは私には何とも言えないが、エンジン回りが改善されているのは事実だ。
 その一つが、燃費にある。
 フィット3はハイブリッドの最安値の燃費はリッター36.4キロ、FパッケージとLパッケージは33.6キロ、インチアップされたSパッケージは31.4キロだ。
 対するグレイスはDXとLXが34.4キロ。インチアップされたEXが31.4キロである。
 グレイスのLXはIRカットガラスやスーパーUVカットガラスを使っているから、フィット3ハイブリッド(以下、フィット3 HVと略す)のFパッケージ以降とおそらく同一の装備に相当する。このお勧めモデルでは、リッター0.8キロ勝り、4WDではグレイスは一律リッター29.4キロに対してフィット3 HVは27.6〜29.0キロだ。
 ベストカーでは、車高が低くなって空力が改善されたとホンダの方がインタビューに答えていた。たしかにグレイスの車高は50ミリ低い。加えてホイールベースが延長されているから直進性は良くなっているだろう。ただ、それだけで120キロ重い車体にここまで燃費の向上がなされるのか。
 JC08モードの燃費測定基準がどのようなものかは分からないが、やはりなんらかの改善はなされており、それは間もなくフィット3にも年次改良で反映されるのではないか。


【4.比較、グレイス!】
 さて、グレイスは5ナンバーセダンのハイブリッドというニッチな層の開拓を担っている。
 他社では、トヨタカローラアクシオハイブリッド(以下、カローラアクシオ HVと略す)が相当するわけだが、ライバルとして考えているのはプリウスだという。
 そのポジションはまさしく今年の4月に生産が終了したインサイトではないか。
 個人的にインサイトのデザインは大好きだ。プリウスに似ているとよく揶揄される流線型のクーペ風ボディは、プリウス2より先に世に出ていた初代インサイト譲りの物だった。
 インサイトの血脈は絶えたが、その魂を受け継いでいるのは心強い。
 だが、どこまで対抗できるのか。
 そんな訳で、ベース車両のフィット3 HV、グレイス、インサイトインサイトエクスクルーシブ、アクア、カローラアクシオ HV、そしてプリウスの比較表を作ってみた。

メーカー 名称 車両重量(kg) 長さ(m) 幅(m) 高さ(m) 排気量(CC) 出力(hps) 燃費(km/l)*2 ベースグレード価格(円)
ホンダ インサイト 1190 4.39 1.695 1.425 1339 88+14 27.2 193万
ホンダ インサイトエクスクルーシブ 1200〜1210 4.395 1.695 1.435 1496 111+14 23.2〜22.2 203万
ホンダ フィット3 HV 1080〜1140 3.955 1.695 1.525 1496 110+29.5 36.4〜31.4 168万1700
ホンダ グレイス 1170〜1200 4.4 1.695 1.475 1496 110+29.5 34.4〜31.4 195万
トヨタ アクア 1050〜1090 3.995〜4.030 1.695 1.455〜1.49 1496 74+61 37.0〜33.8 176万1382
トヨタ カローラアクシオ HV 1140 4.36 1.695 1.46 1496 74+61 33 198万
5ナンバー規制 - 4.7 1.7 2 2000 - - -
トヨタ プリウス3 1310〜1410 4.48 1.75 1.49 1797 99+82 32.6〜30.4 223万2000

 フィット3 HVの下限値であるリッター31.4キロはスポーツグレードであるSパッケージの物で、アクアでこれに対応するG'sグレードのページでは燃費の記載がなかったので、通常のアクアの範囲で記載した。
 また、トヨタ車は4WDの設定がないので、2WDのみで燃費比較をした。

 残念ながら、こうして並べてみるとインサイトの燃費と出力は相当見劣りするのは事実。そこからフィットハイブリッドを2代重ねてホンダは両面とも格段に改良していた。価格面でも、インサイトエクスクルーシブの203万に比べて195万と明らかな値下げがなされている。

 さて、ライバルたるトヨタ車と比較をしてみよう。
 カローラアクシオ HVと比べてみよう。サイズと重量はわずかに上回っているにも関わらず、燃費はDXとLXでカローラアクシオ HVに勝り、インチアップされたEXは劣る。
 ベースグレード価格はカローラアクシオ HVより安価だ。
 出力も、
 グレイスが110馬力(エンジン)+29.5馬力(モーター)=139.5馬力
 カローラアクシオ HVが74馬力(エンジン)+61馬力(モーター)=135馬力
 と合計値で上回っている。
 もちろん、ホンダとトヨタのハイブリッドの構造は同一ではないので、一概には言えない側面もあるだろうけれど。
 肝心のプリウスとの比較では、5ナンバーと3ナンバーの車格の差だけあってサイズは明らかにプリウスの方が上。99+82の出力も合計が181馬力で、相当な違いがある。パワーウェイトレシオをエンジンとモーターの合成値で見ると、プリウスは7kg/hps台、グレイスは8kg/hps台。

メーカー 名称 車両重量(kg) 長さ(m) 幅(m) 高さ(m) 排気量(CC) 出力(hps) 燃費(km/l) パワーウェイトレシオ(kg/hps)
ホンダ グレイス 1170〜1200 4.4 1.695 1.475 1496 110+29.5 34.4〜31.4 8.387〜8.602
トヨタ カローラアクシオ HV 1140 4.36 1.695 1.46 1496 74+61 33 8.444
トヨタ プリウス3 1310〜1410 4.48 1.75 1.49 1797 99+82 32.6〜30.4 7.238〜7.79

 グレイスの燃費はプリウスを越えているが、やはり車格の違いが出ている。
 ただ、それで片付けるのもつまらないだろう。もう一つ表をご覧いただきたい。

メーカー 名称 車両重量(kg) 室内長(mm) 室内幅(mm) 室内高(mm) 排気量(CC) 出力(hps) 燃費(km/l) ベースグレード価格(円)
ホンダ インサイト 1190 1935 1430 1150 1339 88+14 27.2 193万
ホンダ インサイトエクスクルーシブ 1200〜1210 1935 1430 1150 1496 111+14 23.2〜22.2 203万
ホンダ フィット3 HV 1080〜1140 1935 1450 1280 1496 110+29.5 36.4〜31.4 168万1700
ホンダ グレイス 1170〜1200 2040 1430 1230 1496 110+29.5 34.4〜31.4 195万
トヨタ アクア 1050〜1090 2015 1395 1175 1496 74+61 37.0〜33.8 176万1382
トヨタ カローラアクシオ HV 1140 1945 1430 1200 1496 74+61 33 198万
5ナンバー規制 - - - - 2000 - - -
トヨタ プリウス3 1310〜1410 1905 1470 1225 1797 99+82 32.6〜30.4 223万2000

 今度は室内のサイズを比較した。
 プリウスプリウスαのタクシーに乗る機会があったが、頭上に少し圧迫感を感じた事があったので、室内のスペースを比較してみた。
 こうしてみると、グレイスは室内高と室内長でカローラアクシオ HVよりも広いスペースを得ていることが分かる。
 プリウスとグレイスのサイズを比べてみよう。室内幅はプリウスが勝るが、室内長と室内高はグレイスに軍配が上がる。
 5ナンバー規制枠で収めたグレイスとしては、技術的には勝利と言ってもいいだろう。
 後は消費者がどう選ぶかだが、頻繁に5人乗りをするような使い方をしなければ、内部スペースとしてはグレイスの方が広く感じられるだろう。
 この辺りはMM(マンマキシマム・マシンミニマム=機械のサイズを最小にすれば人のスペースが最大になる)というホンダの哲学の面目躍如だ。

 そういえば、広報誌のホンダマガジンでは、グレイスのセールスポイントとしてリアシートの座り心地を挙げていた。
 グレイスのリアシートは上級クラスと同レベルの厚みを採用し、表皮もミニスカートの女性や半ズボンの子供に配慮して触り心地を女性にテストしてもらったという。
 シートのサイドやドアの内貼りも柔らかくした上、自動車のシートで一般的な表皮を貼り付けるのではなく、表皮を被せる方式を採用したので、包まれるような感覚を得られるのだと書いてあった。
 膝裏に当たる表皮も上級の素材を使用して、リビングのソファに負けない座り心地を再現しているのだ。
 グレイスはまず燃費とサイズでハイブリッドの第一線に立ち、居住性でプリウスに対向するというわけだ。
 ちなみに、シートについては文章だけでは今一だろうと思うので、我が愛車のN-ONEの後部座席の写真をUpしてみよう。

 座面や背もたれは肌触りがいいフェルトやコールテンのような毛が立った柔らかい生地を採用している。千鳥柄の部分がそうだ。ただ、座面から下のブラウンの部分はすこし生地の目が粗いのだ。グレイスはN-ONEで言うとシートの生地全てをこの千鳥柄にしているわけだ。


【5.まとめ】
 こうして見ると、グレイスはまず先行車種であるカローラアクシオ HVに対してきちんと優位性を確保し、その上でより上位の車種であるプリウスに対して5ナンバーという税制上の優位や価格、燃費だけにとどまらない別の味付けをして対抗をしているわけだ。
 こうなると、一度負けたインサイトの名前や、初代の知名度の低さから二番煎じという不名誉な烙印を捺されたデザインは残念ながらマイナス要因でしかない。こうした刷新の意味を込めてセダンのグレイスなのだろう。

 グレイスで面白いと思ったのは、それまでの常識と異なる価値観に基づいて作られているという事だ。
 5ナンバーという規制は日本独自の物であり、欧米に自動車を輸出しようとするならば、3ナンバー車こそが相応しい。だから国産車はどんどん3ナンバーに移行していくだろうとある自動車評論家が述べていた。
 ところがグレイスはインドやタイで販売が開始された海外版の4代目シティを日本向けに仕様を変更した物が5ナンバーになっているという事だ。
 途上国市場では5ナンバーは別に窮屈な車ではない。インドではスズキがアルトベースで800CCのエンジンを搭載したアルト800を販売した。アルト800の生産終了後は、1000CCパワーアップしたアルトK10を現在も売り続けている。
 また、20万ルピーだったアルト800はインドで最も安い自動車だったが、まだバイクが主流のインドの新中間層にはそれでも高いとの事で、10万ルピー(ワンラック、ワンラークと言われる)車としてタタ自動車のナノが誕生した*3
 623CCのナノも、日本の軽自動車とほぼ同じサイズだ。
 日本独自の規制だから不自由だとか遅れているだとか考える必要はないのだ。価値観が定まった欧米相手ならばともかくとして、これから我々にとって当たり前な成熟した現代社会を作っていく新興国には、日本の価値基準を勧めるのもいいし、それが予想外な贅沢として捉えられる場合もあるのだ。
 表のプリウスの寸法を見ても分かるように、3ナンバーだからと言って5ナンバーの規制を全て上回っているわけではなく、幅が5ナンバー枠より5センチ大きかっただけに過ぎない。

 自動車は実用品であると同時に、嗜好品であり、威信財でもある。
 今回の趣旨はグレイスとトヨタ車の比較だったが、例えば同じホンダ車でも室内幅と高さはフィット3 HVの方が勝る。どの車種と比べるかはそれぞれの消費者にゆだねられるし、どの車種を選ぶのが賢い買い物なのか、お買い得なのかはその人のライフスタイルや車への思い入れ次第と言ったところだろう。
 こうしてBlogを更新すると改めてグレイスへの憧れの気持ちも強くなったのは事実。かなり遠い将来になるが、乗り換えの候補としてグレイスかその末裔を候補に入れておきたい。

*1:海外版のシティは'14年1月

*2:4WD除く

*3:ちなみに、工場出荷時の価格は10万ルピーだが、販売店などを経由する段階で15万ルピーくらいになるという

N-BOX Slashは『お買い得モデル』なのか?

senri_gusuku2014-12-13


今週のお題今年買ってよかったもの」(2014年をふりかえる第2回)
※新型車のN-BOX Slashが「今年買ってよかったもの」になるか考察しました。

【1.N-BOX Slashはおそらくやっぱり軽ハイトールワゴン】
 前回の日記でチョップドルーフという趣旨から、室内の底面積がN-BOXと同様であればN-BOX Slashは軽ハイトールワゴンとしてのアイデンティティは保てるのではないかということが分かった。
 ともすると、消費者としては、やはり気になるのはお値段だろう。なにしろ、マガジンXでかなり早くから報道されていた書きっぷりだと、外見はワルくなるが背が低いから燃費は優等生だろうと予想されていたくらいだ。
 ひょっとしてお買い得モデルなのかもしれない。
 今回ベストカー2015年1月10日号で報道された燃費とベースグレードの価格を元に、各軽ハイトールワゴンでの比較を行った。


【2.比較! 燃費・価格】

メーカー 名称 高さ(mm) N/A燃費(km/l) ターボ燃費(km/l) ベースグレード価格(円)
ダイハツ ウェイク 1835 25.4 23.8 135万
ダイハツ タント 1750 28 26 120万3429
スズキ スペーシア 1735 29 26 126万3600
NMKV DAYZ Roox 1775 26 22.2 127万5480
ホンダ N-BOX  1780 25.2 23.4 127万5326
ホンダ N-BOX+ 1780 24*1 22.2 138万8572
ホンダ N-BOX Slash 1670 25.8 24 138万

 ベースグレードの価格は意外と高価で、同じ軽ハイトールワゴンではウェイクよりも高く、N-BOX+に迫る値段になっている。
 N-BOXの派生車種でけして多くはないであろう生産台数で上積みできるコストや採算が取れる値段はこれくらいというホンダの認識なのだろう。ウェイクより3万円高いのは、ウェイクの提供する趣味よりも、N-BOX Slashが提供するそれを楽しみにする人にとってはあまり比べる対象でもないかもしれない。
 ただ、気になるのは燃費の部分だ。リッター25.8キロは、ノーマルのN-BOXよりは良い数値だ。だが、その差はリッターあたり0.6キロに過ぎないのだ。
 N-BOX Slashは天井を低くしているのでその分ピラーやガラスの重量は減少しているだろうし、後部ドアもスライド式ではなくヒンジ式だから軽量化はかなり進んでいるはずだ。在来のN-BOXシリーズのように自転車を積める事をアピールする事も難しいサイズなので後部ハッチも小さくでき、強度保持も無理のない構造になるだろう。空力だって良くなっているはずだ。
 たぶん、そうできなかったのは、N-BOX Slash最大の特徴に理由があると思う。


【3.特徴のためのN-BOXシリーズ?】
 N-BOX Slashの最大の売りは、8つのスピーカーとサブウーファーによる音響の良さ『サウンドマッピングシステム』だ。
 ただこれは諸刃の剣で、乗っている方は良くても、周囲にとっては漏れている音は迷惑でしかない。個人の趣味でカスタマイズした車ならともかく、メーカーが公式で生産している車がそれだとマズいので、当然対策はしているだろう。
 防音というといかに振動をさせないかに尽きる。遮音フェルトの使用もそうだが、ガラスや鉄板の厚みを増し要所に鉛など錘を使う事もあるという。
 N-BOX Slashの実際のスペックや防音設備がどうなっているのかはまだ分からない。
 ただ、こうして音響対策をしてみると、軽トールワゴンに近い車体ながら燃費が悪くなったので、N-WGNファミリーではなくN-BOXファミリーとして売り出したのではないかとも考えられよう。ほかにも後部のスピーカーへの回路や配線に電動スライドドア用のスペースが流用できるからとかそんな設計の都合もあるかもしれないけど、ここら辺は私のような素人の妄想どまりだろう。


【4.ナンバーワンよりオンリーワン
 ただ、この優れた防音設備を活かして8つのスピーカーからの迫力のサウンドを楽しめるのは、最上級のXやXターボパッケージだけになる。
 ならばあまり意味がないのか、と言われるとそんな事はない。
 防音が出来ているという事は、例えば軽自動車特有のエンジン音や振動もあまり気にならないはずだ。
 また、各部材が厚ければ剛性感があり、有事の際は他の軽自動車よりも安全性が高いかもしれない。Aパッケージ以上はN-WGNと同じく安全性で5つ星は取れるのではないだろうか。
 こうしてみると、今までの軽自動車での主流の価値観である安さや燃費とはまた違った価値観の自動車であり、まさしくナンバーワンよりオンリーワンとして設計されたクルマなのだろうと考えられる。
 お買い得かどうかは今までの価値観よりも、個人個人の価値観に任されているように感じられる。

 なお、以上は全て私の予想に過ぎないので、12月22日の発表で全て覆される可能性がある事は付記しておきます。
 どうなるかなあ。

*1:N-BOX+はN-BOXと外形の寸法は同じだが、40Kg重いため、燃費に違いが出る。

N-BOX Slash発売間近! 軽ハイトールワゴンの境界って?

senri_gusuku2014-12-12


 ベストカー2015年1/10号、ホリデーオート2015年1月号と表紙に小なりと言えどもN-BOX Slashの写真が掲載される雑誌がコンビニに並ぶようになった。
 両誌の発売直前記事によると、発売は12月22日。
 背の高さは以前の記事だと1660mmだったと記憶しているが、1670mmに上方修正された模様だ。まあ、前回の私の日記の記載が記憶違いという可能性も否定できないのだけど、その雑誌も今は人に貸しているので確かめる術はない。

 いずれにせよ、N-WGNよりは背が高い事は間違いない――。と言っても、それだけだとポジションが中途半端に思える事は否定できない。
 軽自動車は、前長と全幅はどの車種でも基本的に同じだから、そこまで違いがあるか分からないのだ。
 そこで、ここは趣向を変えて各軽トールワゴンと軽ハイトールワゴンの室内のサイズを比較できる表を作成したぞ。

等級 メーカー 名称 高さ(mm) 室内長 室内幅 室内高
軽ハイトールワゴン ダイハツ ウェイク 1835 2215 1345 1455
軽ハイトールワゴン ホンダ N-BOX  1780 2180 1350 1400
軽ハイトールワゴン ホンダ N-BOX+ 1780 1885*1 1350 1400
軽ハイトールワゴン NMKV DAYZ Roox 1775 2235 1320 1400
軽ハイトールワゴン ダイハツ タント 1750 2200 1350 1365
軽ハイトールワゴン スズキ スペーシア 1735 2215 1320 1375
ホンダ N-BOX Slash*2 1670 2180 1350 1290〜1315
軽トールワゴン スズキ ハスラー 1665 2035 1295 1250
軽トールワゴン ホンダ N-WGN 1655 2055 1355 1300
軽トールワゴン スズキ ワゴンR 1640 2165 1295 1265
軽トールワゴン ダイハツ ムーヴ 1630 2080 1320 1280
軽トールワゴン NMKV DAYZ 1620 2085 1295 1280
軽トールワゴン ホンダ N-ONE 1610 2020*3 1300 1240

 N-BOX Slashの室内サイズは発表されていないので、N-BOXを元に仮想値を作成した。室内幅はほぼ同じだろう。ルーフの後方への傾斜こそあるが、ボディ後端は地面と垂直だから室内長はN-BOXと同等のはずだ。室内高はN-WGN方式の全高から355mm減らした高さ1315mmと、N-BOXと同様380mm短縮した1290mmの間の幅だと思われる。

 まずは外側から。N-BOX Slashの1670mmは既存の軽ハイトールワゴンで最も小型で燃費のいいスペーシアの1735mmよリ65mm低い。既存のトールワゴンで最も高いハスラーの1665mmよりも5ミリ程度大きい。こう書くと軽トールワゴンとの差はわずかで、軽ハイトールワゴンのカテゴリに入れるのは少々強引な気がする。だが、室内のサイズとなると話は分かれてくる。
 室内高は、想定される最低サイズでもハスラーより高い。ホンダ特有のセンタータンクレイアウトと、ハスラー特有の大き目のタイヤがもたらした差だろう。
 別にハスラーが特別低いわけではなく、他の軽トールワゴンでも高めのDAYZやムーヴよりも天井が高い事になる。唯一仮想サイズの最低値ではN-WGNより低い事になるが実際はどうなることやら。
 室内幅もN-BOX Slashのサイズはムーヴよりも3センチほど大きい。これまたN-WGN以外には勝っている。
 室内長は原型車ゆずりの2180mmを保持できるだろうから、最も長いワゴンRにも勝る。

 こうして数値を見ると、N-BOX Slashはまず外側の寸法でN-BOXファミリーのアイデンティティを保ち、室内スペースで軽トールワゴンの大半を上回る軽ハイトールワゴンとしての広さを実感できるのだろう。
 ただし、トールワゴンの室内サイズで最大のライバルとなるのは、N-WGNだろう。こうなると室内高はやはり1300を上回っているのではないかと思えてくる。

 さて、今回は推定値での比較がメインになり、今回報道された燃費や価格については触れられなかった。
 次回N-BOX slashで日記を書く時はその辺りも触れようと思う。

*1:N-BOX+はN-BOXと寸法がほぼ同じだが、後部席がより前方にあるため、後部席後端をまで室内長として計測するとこの数値になる。

*2:室内長は仮想値

*3:ディスプレイオーディオ搭載車は2045

軽自動車が国際市場で戦うには、何馬力必要か?


【1.数字が語り掛けてくるんだ】
 以前UpしたS660の馬力に関する考察だけど、一覧表を作ると分かりやすいのではないかと考え、参考資料を作ってみた。
 みたはずなのだけど、作っている内に少し自分の考えが進んできたので、独立した日記として書いてみたぞ。
 私は完全な文系だけど、数字を追っている内に物が見えてくるとは年を取ったというか、いやまあ社会人としては、やっと人並みになったというべきか。


【2.Aセグメントの国際比較】
 まずは、一部の軽自動車と、国産Aセグメント、そして町中でよく見かける外車のAセグメントの一覧表をどうぞ。
 馬力だけ話しても自動車の重さは様々なので、パワーウェイトレシオも記載してみた。
 私もこの表のために初めて使った数値だけど、馬力当たりの重量をこの数値は、数が小さければ動力性能は優秀さを示している。なお、小数点第4位以下は四捨五入した。
 もちろん、これだけではなくてエンジンの最大トルクを引き出すための回転数だとか空力やCVTだかギアのセッティングとかで総合的な動力性能は決定されるので、参考までに見てほしい。
 作成している内に段々表記が揺れているところもあり、パッソ以降はグレードの違いによる幅の記載が出来ていない所はご容赦の程を。

メーカー 名前 車両重量(Kg) 馬力 排気量(CC) ターボ、N/A パワーウェイトレシオ(Kg/PS)
ホンダ N-WGN(N/A) 820〜880 58 658 N/A 14.138〜15.172
ホンダ N-WGN(ターボ) 850〜910 64 658 ターボ 13.281〜14.219
ダイハツ コペン 850〜870 64 658 ターボ 13.281〜13.593
三菱自動車 ミラージュ 860〜870 69 999 N/A 12.609〜12.464
日産 マーチ 940〜1040 79 1198 N/A 11.899〜13.165
トヨタ パッソ 1.0L 910 69 996 N/A 14.435
トヨタ パッソ 1.3L G 940 95 1.329 N/A 9.895
ケータハム セブン160 490 80 658 ターボ 6.125
smart フォーツー クーペmhd 840 71 999 N/A 11.831
smart フォーツー カプリオ ターボ 870 84 999 ターボ 10.741
フォルクス・ワーゲン up! 900〜920 75 999 N/A 12〜12.267
フィアット・クライスラー 500 TwinAir Pop 1010 85 875 ターボ 11.882
フィアット・クライスラー 500 1.2 Pop 990 69 1240 N/A 14.349


 外車はパワフルという印象があるけれど、こうしてみるとsmartもフィアットも85馬力を最大の出力の上限にしてとどめており、100馬力というのはTPP対策でもいささか行き過ぎの可能性がある。

 意外な事にコペンN-WGNのターボでも、パッソの1.0リットルモデルとフィアット・500 1.2 Popより高い成績を示している。維持費を考えれば、現行軽のターボもそんなに悪い選択肢ではないのだ。
 ただ、マーチやミラージュの下限値には及ばない。
 両者ともにASEAN諸国への輸出の関税で優遇を得るためにタイの工場で生産されるまさに国際市場で戦う日本のAセグメント車だ。ここはやはり、64馬力規制を取り払ったケースと比べてみた方が面白いだろう。
 S660の重量はまだ不明なので、一応コペンと同じと仮定した。
 樹脂製の外装をフレームに被せるコペンと、モノコック構造のS660だと前者の方が軽いかもしれない。けれど、S660はソフトトップで電動ルーフなどの機能もないし、モノコックの方が軽くなるという考え方もある。一長一短なので、同じ値として計算したぞ。

メーカー 名前 車両重量(Kg) 馬力 排気量(CC) ターボ、N/A パワーウェイトレシオ(Kg/PS)
ホンダ 仮想S660(80馬力) 850〜870 80 658 ターボ 10.625〜10.875
ホンダ 仮想S660(85馬力) 850〜870 85 658 ターボ 10〜10.235
ホンダ 仮想S660(100馬力) 850〜870 100 658 ターボ 8.5〜8.7
三菱自動車 ミラージュ 860〜870 69 999 N/A 12.609〜12.464
日産 マーチ 940〜1040 79 1198 N/A 11.899〜13.165
トヨタ パッソ 1.3L G 940 95 1.329 N/A 9.895
ケータハム セブン160 490 80 658 ターボ 6.125
smart フォーツー クーペmhd 840 71 999 N/A 11.831
smart フォーツー カプリオ ターボ 870 84 999 ターボ 10.741
フォルクス・ワーゲン up! 900〜920 75 999 N/A 12〜12.267
フィアット・クライスラー 500 TwinAir Pop 1010 85 875 ターボ 11.882


 こうしてみると、80馬力でもパワーウェイトレシオは10Kg/PS台に向上する。フィアット・500 TwinAir Popは元より、smartフォーツー カプリオ ターボと並ぶかそれ以上の数値だ。
 もちろん、アウトバーンを走行する事も考慮された欧州車と、制限時速100キロの高速道路を前提に考えられた国産車では車体の構造に費やす重量も違うだろう。けれど、この余力を車体の強度に振り分ければ、TPPの趣旨である自由貿易として欧米にも売り出せるのではないか。
 さらに出力を100馬力まで引き上げるとパッソの1.3Lモデルの9.895を越える8.5〜8.7にまで跳ね上がる。
 きっかけとなったケータハムセブンは越えられないけど、あれはそもそも400万円以上する本格的なスポーツカーで、ここで取り上げたどの外車よりも高い(取り上げた車種は200万円程度)から、比べても詮無い事だろう。

 
【3.Bセグメントで確信を得る】
 続いて、参考までに、Bセグメントの表を。
 今回掲載した軽にハイブリッドはないので、通常動力の車を掲載した。
 ちなみに、ミニクーパーは調査のタイミングでホームページの諸元表が文字化けしていたので、正常に表示されたクラブマンを記載している。

メーカー 名前 車両重量(Kg) 馬力 排気量(CC) ターボ、N/A パワーウェイトレシオ(Kg/PS)
ホンダ フィット3 13G 970 100 1317 N/A 9.7
ホンダ フィット3 15XL 1060 132 1496 N/A 8.03
マツダ デミオ 13C 1030 92 1298 ターボ 11.196
マツダ デミオ XD Touring 1080 105 1498 ディーゼルターボ 10.286
フィアット・クライスラー イプシロン 1090 85 875 ターボ 12.824
BMW MINI Cooper Clubman 1210 122 1598 N/A 9.918
フォルクスワーゲン The Beetle Design 1300 105 1197 ターボ 12.381
フォルクスワーゲン The Beetle Turbo 1380 211 1984 ターボ 6.54

 クライスラーイプシロンが例外的に低いが、これはフィアットとエンジンを共用しているからだ。
 見ての通り、外車でも100馬力を越えるのはBセグメントからになる。
 100馬力でアウトバーンを走行して万が一の事故に備えた車体となると、このサイズがやはり必要という事だろうか。
 日本車でも、最新デミオのガソリンモデルは100馬力未満で、ホンダのフィット3のガソリンモデルが100馬力きっかりだ。
 S660をスポーツカーとして例外扱いするにしても、軽自動車全体を輸出車に引き上げるために全てを100馬力に底上げするのは、各方面の反発は必至だ。自社製品の共喰いになるし、欧米側のAセグメント・Bセグメントの区分も見直さないといけなくなるからである。
 ともすると、S660が技術的に100馬力に到達する事は出来ても、やはり登録車扱い。TPPに伴う軽自動車の規格見直しがあるとしても、100馬力は現実的ではない。


【4.まとめ】
 結果として、Aセグメントとして国際市場を戦うには、80-85馬力あればいいという事になる。
 ただ、貧乏性の私としては、64馬力からそんなに引き上げられても値上がりするんじゃないかとしみったれた事が気になってくる。
 それに、クルマ好きから後ろ指をさされても軽自動車の販売台数はN/Aモデルの方が多いのだから、国際市場を戦うにも現在の数値に近い物が提案できないか、と思うのだ。消費者は限られた予算の中で最適な選択をしたいはずだから。
 外国と言ってもアウトバーンのあるようなヨーロッパだけではない。
 高速道路が未整備な途上国もあるだろう。いたずらに欧米の車の性能と肩を並べる事だけが正解とは限らない。また、そうした国こそが今後の成長市場と言えるだろう。
 そんなわけで、先ほどのAセグメント表で、軽自動車とASEAN向けのマーチとミラージュを抽出し、インドで販売されている車種とその他(理由は後述)を追加してみた。

メーカー 名前 車両重量(Kg) 馬力 排気量(CC) ターボ、N/A パワーウェイトレシオ(Kg/PS)
タタ自動車 ナノ 580〜600 32.185 623*1 N/A 18.021〜18.642
マルチ・スズキ・インディア アルトK10 740 68 1000 N/A 10.882
ホンダ N-WGN(N/A) 820〜880 58 658 N/A 14.138〜15.172
ホンダ N-WGN(ターボ) 850〜910 64 658 ターボ 13.281〜14.219
ダイハツ コペン 850〜870 64 658 ターボ 13.281〜13.593
ホンダ 仮想S660(80馬力のケース) 850〜870 80 658 ターボ 10.625〜10.875
ホンダ 仮想S660(85馬力のケース) 850〜870 85 658 ターボ 10〜10.235
ホンダ 仮想S660(100馬力のケース) 850〜870 100 658 ターボ 8.5〜8.7
三菱自動車 ミラージュ 860〜870 69 999 N/A 12.609〜12.464
日産 マーチ 940〜1040 79 1198 N/A 11.899〜13.165
フォルクス・ワーゲン up! 900〜920 75 999 N/A 12〜12.267
フォルクスワーゲン The Beetle Design 1300 105 1197 ターボ 12.381
フィアット・クライスラー イプシロン 1090 85 875 ターボ 12.824


 タタ自動車のナノのパワーウェイトレシオ18台はさすがに、10万ルピーカーの超廉価モデルの例外として考えるにしても、マーチやミラージュは11後半〜13前半だ。
 フォルクスワーゲンのup!やビートル、そしてクライスラーイプシロンは外車でもパワーウェイトレシオが格別高くなかった車種だ。これらの数値は12Kg/PS台。ここら辺が途上国を含めて国際的にも多くの人がストレスを感じない動力性能となるのだろう。
 N-WGNの最重量モデルとUp!は大体同じくらいなので、75馬力あれば同様の性能を与えられるだろう。

 ここは我が国のモノづくりのためにも、成長著しい新興国の市場を掴むためにも、軽自動車の馬力の自主規制を75〜85に引き上げるようにホンダと国の偉い人が合意に達していると嬉しいんだけどなあ。
 軽自動車、国内で作っているから、雇用も増えて日本はより豊かになりますよ、お偉いさん方!

 え? 海外と規格を統一したから海外で作るって? それは一番の悪夢だけど、ホンダのフィット3は海外でも売られているけど寄居工場で作られているから、そんな事はないっすよね?
 衆院選がS660の正式発表の後だったら面白いんだけどなあ(ぼそっ)。

*1:wikipedia記載より。日経新聞の記事だと、624CCとの記載もある。

S660は64馬力? それとも100馬力?


【1.気になるS660、ベストカーの情報】
 昨年から開発が発表されていたホンダの新型軽スポーツのS660。
 私はN-ONEもあるし購入することは考えていない物の、チェックは欠かせない。
 コンセプトカーのデザインは格好いいし、目が離せなくなる事情が一つあった。

 今年の10月第4週発売のベストカーでの記事によると、S660はTPP対応で軽自動車の税率が上がる事と引き替えに、軽自動車の馬力の自主規制の64馬力を撤廃し、100馬力になるというのだ。
 未確認情報との事だったが、天下の講談社が発行する雑誌の巻頭で特集され、その記載は11月第2週売りのモーターショウ特集号でも揺らぐことはなかった。
 スズキのエンジンを80馬力にチューンしたケータハムセブンが軽自動車枠で発売されたことが切っ掛けとして挙げられており、情報には一定の説得力があった。

 おりしも軽自動車の税率上昇の時、ホンダの姿勢には疑問があった。
 スズキの会長のかみつき方は半端ではなく、ダイハツ経団連で発言力の強いトヨタの系列会社であるにも関わらずスズキに続いて苦言を呈していた。ところが、N-BOXで軽自動車ナンバーワンの地位を得たホンダは、2社の発言に少し遅れて税の増額に難色を示して、あまりやる気が感じられなかったのだ。
 ホンダの国内市場への軽視の反省からN-BOXが生まれたという記事を何度も読んでいた私としては、揺り戻しが発生したのかとがっかりした物だった。
 そんな後でのベストカーの記事は、なぜホンダが大人しかったのか納得できる物で私はおおいに頷いたものだった。増税は避けられないものとして、その趣旨である国際競争力や自由貿易の世界に軽自動車を引き上げようとするナイス判断。
 かつてN-360の時代に、公用車と間違えられるからと一般の使用が禁止されていた白や赤のボディカラー*1を許すように運輸省と戦っていたホンダの魂は健在だったのだ!

 S660は一部のスポーツカーユーザーだけではなく、軽自動車全ユーザーの夢を運ぶ車になりそうだった。


【2.ホリデーオートの別情報】
 ところが、ホリデーオートという雑誌を読むと情報は違っていた。
 絶対匿名を条件に、ホンダの関係者が明かした情報によると、S660はやはり64馬力で発売されるというのだ。
 90馬力以上にチューンしたモデルも開発中だが、それは5ナンバー枠(と、記載されているのだが、そもそも軽自動車は5ナンバーなので、普通車とか登録車という意味だろう)での販売になると言うのだ。
 背景として、100馬力まで引き上げると各メーカーでの競争が際限なくなり、軽自動車枠の意味がなくなってしまうとのこと。

 なんだか常識的な枠に収まった最新の報道だが、掲載のチューンアップされたS660の予想図がコンセプトカーはもとより、ベストカーで発表された予想図よりも派手で現実感がなく、どうなる事やら。
 ベストカーでも未確定情報となっていたから、この情報の方が地に足が着いているともいえよう。

 たしかに、100馬力というのはなかなかの数値だ。
 Aセグメント(1300CC未満のコンパクトカー)として軽自動車から一回り大きな車で見ると、三菱のミラージュは1000CCで69馬力、日産のマーチは1200CCで79馬力だ。海外のフィアット500は875CCターボで85馬力で、1240CのCN/Aモデルは69馬力。Bセグメントのデミオでは1500Cディーゼルターボで105馬力、ホンダのフィットハイブリッドは1500Cのガソリンエンジンとハイブリッドモーターがそれぞれ110馬力と29.5馬力となる。ちなみに外車のBセグメントだと、クライスラーイプシロンが875CCターボで85馬力(フィアットクライスラーだから、エンジンはフィアットと共通)だ。
 スズキが海外に軽自動車を輸出するとき、エンジンは800CCに積み替えているというが、排気量から推測するに、100馬力には及ばないと考えられよう。

 と、すると今までの報道は講談社の勇み足なのか。


【3.未来に希望を】
 ただ、実際に自動車業界がTPPにさらされて、ケータハムセブンが存在するのは事実だ。
 ベストカーとホリデーオートで観測気球として別々の情報を流して、着々と準備を進めている可能性だってある。
 個人的には100馬力はオーバースペックだとは思うけど、80馬力ならばケーターハムセブンと並んで、過剰な競争は起こさないし、Aセグメントとしてはマーチと並んで不足のない動力性能になる。欲を言えば、85馬力あればフィアット500は迎え討てるし、海外でも戦えるのではないか。
 おりしも、ホリーデーオートの同じ号でケータハムセブンが80馬力で軽になったのは、スズキが提案したからではないかとの説が流れていた。
 新しい自主規制は80〜85馬力。円安を背景に国内の工場が生産した軽が途上国を初め、古い町並みの隘路が残るヨーロッパにもがんがん輸出される未来が実現してくれると嬉しいものだけど、どうなるかなあ。

*1:前者はパトカーや救急車に似ていて、後者は消防車に似ているという理由だった。

2ちゃん家庭板の住人は花咲か爺さんを語りつぐ


【1.みやざき歴史文化館!】
 今日は宮崎市の市街地北部にあるみやざき歴史文化館へ行って企画展の『宮崎の武士たち』を観て展示をメモしたぞ。
 現在の宮崎市域は江戸時代は佐土原藩飫肥藩鹿児島藩と3つの藩が国境を重ね、しかも日向の北端を支配していた延岡藩の飛び地もあったからさあ大変。
 まあ、江戸時代には宮崎市なんて概念はなかったけど、展示は佐土原藩飫肥藩、そして鹿児島藩の外城である高岡の武士のそれぞれの日用品や武具などを展示し、華やかな展示になっていた。
 身分制度に祈り、ニュースや貴人への関心、武具や楽器に調度品から見える日常の生活、そして教育制度や各藩のお家騒動など充実しておりました。
 個人的には、飛び地だった延岡藩の武士がどんな制度を敷いていたのかとか、鹿児島藩の去川の関所以外に各藩の国境警備体制とかより知りたい事もあったのだけど、ここら辺は気になったら自分で調べろとか言われそうではある。まあ、そうして組み上げた物がちゃんとしていれば、大学生や研究者の皆さんは評価されるから頑張ってくださいと、週末歴史家に過ぎない会社員のわたくしは思うのでありました。腐っているなあ。


【2.にほん昔ばなしと2ちゃん家庭板の共通項】
 さて、そんなみやざき歴史文化館は、蓮ヶ池歴史公園と言われる遺跡の中に建てられており、子供の遊び場も充実している。
 市としては子供向けの施設として意識しているのか、懐かしのまんがにほん昔ばなしのDVDがエンドレスで上映されており、和やかな気持ちにさせられる。
 にほん昔ばなしは別に史実に基づいているわけではないのだけど、そこはそれ。
 そもそも『歴史文化館』という『歴史博物館』ではないネーミングにしたのは、宮崎市が施設を作った時は歴史の古い清武町佐土原町も合併していなかったからだ。飫肥藩の史料は日南市、鹿児島藩の史料は鹿児島県が管理しており、宮崎市の歴史史料の持ち合わせは極めて少ない。そこで日本神話を展示の主体にしようとした苦肉の策から『歴史文化館』が生まれたのである。
 だからこそ昔ばなしは、この館の設立当初の伝承というモチーフとしては間違いのないチョイスだ。

 『花咲か爺さん』のお話を聞きながらノスタルジックな気分に浸る。クリップボードに固定したルーズリーフにキャプションを書き写していくのは学生時代、それも一番古い小学生の頃から変わらない行為だ――。が、ふと懐かしさ以上の既視感を覚えた。犬のシロが小判を探し当てたらシロを貸せと言ってきたり、シロの墓に植えた木から作った臼が小判を出すと知ったらまた臼を貸せと言ってくるいじわるじいさんとばあさんの下りだ。
「これってクレクレとかキチママじゃん!」
 と。
 イキナリの特殊用語で申し訳ないが、2ちゃんの家庭板の用語で、前者は他人が自分にないものを持っていると羨ましがってとにかくクレと言ってくる方、後者はまあ何にでもイチャモンつけるママさんを指している。
 現代って怖いなあとか、最近は常識がない人が多いなあとか思わされるエピソードが家庭板には溢れかえっている。
 物語が語り継がれたという事は、共感を呼んできたという事である。
 日本人が清廉だったはずの時代ですら、社会にクレクレとキチママが発生する事は避けられない物なんだよなあとしみじみと思わされた。
 家庭板で釣りとか創作と思われるエピソードもあるけれど、図らずしもその作者はまた昔話の派生を紡いでいるわけだ。


【3.変わりゆくもの、変わらぬもの】
 昔話は古びた衣をまとっているけれど、その中身はいつの時代にも通じる普遍性を持っているという事だ。
 自然災害や妖怪は避けられぬ困難や試練そのものだし、無茶ぶりをする長者や殿様は顧客や上司に置き換えられよう。
 こうした物語を通じて、大人たちは生きていく上での試練や知恵を子供たちに語り継いでいったのだなとなんとなく実感させられた。
 いい加減、自分の子供に昔話の絵本でも語り聞かせても不思議でない年齢になりながら2ちゃんのまとめサイトと博物館を楽しんでいるけれど、いい勉強になるなあ。

11月24日週のマッサン

【1.うろおぼえなあらすじ】
 ついにエリーのアドバイスで鴨居商店への就職を決意したマッサン。
 早速鴨居商店に乗り込むも、鴨居の大将の新商品ウヰッキーがウヰスキーを炭酸割りにした飲料である事に激怒して、退出してしまう。
 鴨居の大将は引き続きウヰスキーを作るべくスコットランド人のミスター・アンドリューにエリーを通訳に、日本に招待できるスコットランド人の技術者がいないか確認をする。だが、日本とスコットランドの風土の違い、そして日本の遅れた文化ではウヰスキーを作る事が出来ないというのだ。退出を促されたアンドリューはスコットランドで熱心にウヰスキーについて研究していた日本人について告げ、彼が作れていないのならば日本人には作れないと言い放つのだった。
 帰宅したエリーはマッサンへ鴨居の大将の熱い思いを伝え、二人の仲を取り持つために、マッサンの実家で稼いだお給金をはたいて宴席を用意する。
 宴席で意気投合する二人だが、マッサンの用意したスコットランドウヰスキーの原酒の味の解釈を巡って席は決裂する。
 エリーがマッサンを問い詰めていると、大家から意外な申し出があった。
 破格の給料で教員をしないかと言うのだ。生活のために受けようとするマッサンの元に、鴨居の大将が現れる。別の商談でマッサンを評価された彼は、やはりマッサンを雇う気になっていたのだ。マッサンを秘密基地に案内した鴨居の大将は、自らのウヰスキーへの思いをマッサンに語り、ついに二人は手を結ぶのだった。
 マッサンとエリーは再就職を広島の実家に知らせ、新しいスタートのために大阪へと舞い戻るのだった。
 

【2.感想】
 再就職エピソード、引っ張り過ぎ!!
 マッサンはまともな仕事に就かず、新しい出発地点が鴨居商店と見えているのにツンデレというか、男でこれをやられると面倒くさいですな。
 ここまでエリーの成長をメインで描いていたと本編で語られるわけだけど、うん、確かに様々な苦労があり以前はマッサンとケンカになると家を飛び出したり、お互いにコミュニケーションを拒んでいたりしたけれど、きちんと話し合っていて、二人の夫婦の仲も進展している。

 ただなあ、どうもマッサンはただのウヰスキー原理主義者の馬鹿にしか見えないんだよなあ。
 仕事は一人でするものでなし、会社の製品やサービスで気に入らない物がある事だってあるだろう。顧客から理不尽な要求を受けることだってあるだろう。
 マッサンが継ぐ事を否定してきた実家の造り酒屋にも彼のルーツがある事を確認できた先週の後で、しかも社会人経験をした後でスコットランドで辛い修行をした後のはずなのに、些細な事で再就職を蹴ってきた態度は人間が描けてないというか、まんがあアニメだったらキャラがぶれていると言われても仕方のない造形ではある。
 しかも、今週マッサンの再就職でやって来た事って、鴨居の大将を逆に面接してボスとして仰ぐのにふさわしいかどうか見定めていたって事だもんね!
 でも、それがいい。社会人とはこうあるべき、みたいな説教は現実と自己啓発書で十分だ。
 我々は、転職や再就職の時、我々は応募先の企業を吟味して履歴書を出し、面接官の態度や質問から、行きたい会社かどうか見定める。
 本作が親しみのある娯楽作品として許容するリアリズムが、ドラマチックな心象風景の具現化だとすれば、間違ってはいまい。
 とりあえず、エリーがマッサンの前で大将とハグをせず、マッサンと大将とのハグで幕を閉じた金曜日の放送はなかなか良かった。

 ところで、個人的に不思議なのは太陽ワインのポスターでの本編の扱いなんだよなあ。
 ふつうエロい広告で男がヒャッハーして女が後ろ指さすかと思ったら、逆の描写だし、かといってエロいとかいうと健康美だというし、わけが分からんとです。
 本編の男性全員が鴨居の大将のやり方を理解出来たら唯一無二のイノベーターとしての存在感がなくなるからなのか、あれが世間での普通なのか。わしにはようわからんです。

 最後に、ミスター・アンドリューの余裕を持った断り方と挑発の仕方、あの場面結構好きです。鴨居の大将の啖呵もかっこいいけど、最近アニメで余裕を持ってて狂ってもいない強力な悪役ってあんま観ていなかったので、スゲー気に入りました。
 まあ、再登場するときには鼻を明かされていそうだけど。